音・旅・自然

宗谷岬

「宗谷岬」という歌があります。

http://www.youtube.com/watch?v=UPPzSpUwfk8

私はこのごろ
時々この歌を口ずさんでいます。

先月
長く入院していたお父さんが亡くなったと友人から知らせがあり
何ができるわけではないけれど
彼女のそばにいきたくなって家を訪ねました。

青葉神社夕日のしだれ桜

まだまだ哀しみの中にある友人でしたが
ぽつりぽつりとお父さんの話をしてくれました。

お父さんは享年92歳
老衰に加えて併発した肺炎のため
吸引や酸素吸入などで苦しいはずなのに

看護師さんやお医者さんには
そのつど ありがとう
上手になったねと
感謝の言葉をかけ

時には
いい人相をしているよ
もうじきいい彼が見つかるよと笑わせ
病棟の人気者だったのだそうです。

家族に対しても
みんなの体調を気づかって
大丈夫だからもうお帰りと言う
優しい方だったそうです。

お父さんの体力が目に見えて落ちてからの数ヶ月
友人は仕事をやりくりしてお母さんと交代で付き添っていたそうですが

ある頃から
お父さんの病室に入ると
仕事の疲れやいろいろな心配事がすうっと消えて
ただ温かい気持ちに満たされるようになったといいます。

お父さんは吸引や咳こみの疲れから
最後は寝ていることが多かったそうですが

お父さんの病室に入るだけで
友人は不思議に心が静まっていったそうです。

自分がおかしいのかなと思って
時々交代に来てくれたご主人やお母さんにきいたら
みんなも同じことを感じていたと言ったそうです。

周りの人には
看病大変ねといわれたけれど
実は逆だったのよ

父のそばにいると
何だか父の愛情に包まれているみたいだったの。

彼女は昨年
父の看病をしていた私が
昏睡状態の父から愛情が流れ込んでくるような感じがしたと
話したことを覚えていてくれて
同じような気持ちを味わったと言ってくれました。

人はからだを越えた存在なんだということを
私たちは実はいろいろなところで感じているのかもしれません。

彼女が病院に寝泊まりするようになって一ヶ月ほどたったある日
お父さんは珍しく目を覚ましていて
彼女に「宗谷岬」を歌っておくれと言ったのだそうです。

彼女はお父さんがいつでも口ずさめるように
お父さんの好きな歌をたくさん紙に書いて病室の壁に貼っていました。

でもお父さんの体力が落ちてからは
彼女が歌ってあげることが多くなっていたのだそうです。

  流氷とけて 春風吹いて
  
  ハマナス咲いて カモメも啼いて
  
  遙か沖ゆく 外国船の
  
  煙もうれし 宗谷の岬
  
  流氷とけて 春風吹いて
  
  ハマナス揺れる 宗谷の岬

はまなす

    幸せ求め 最果ての地に
    
    それぞれ人は 明日を祈る
  
    波もピリカの 子守のように
  
    思いで残る 宗谷の岬
  
    流氷とけて 春風吹いて
  
    ハマナス揺れる 宗谷の岬

彼女が歌うのを
お父さんは黙ってきいていて
歌い終わると微笑みながら「ありがとう」と言ったそうです。

お父さんが息を引き取ったのは
その夜
彼女が一ヶ月ぶりに
実家に下着の替えなどをとりに戻っていた間でした。

「最期までそんな いいカッコしなくてもいいのにね」
彼女は涙ぐみながら笑っていました。

お父さんは
それは安らかな
眠るような笑顔だったそうです。

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