セドナについた翌朝から
自然に日の出前に目が覚めるようになった
誰かに起こされるように目が覚める
大地が目覚め
日の出を待つ静かな静かな時間に
それは
自分が自然界のリズムとひとつになっていることを教えてくれる
嬉しいサイン
モニュメントバレーに宿泊した翌朝も
誰かにそっと肩を叩かれたように目が覚めた
外はまだ真っ暗
高い空に明けの明星がまたたいている
静かに身支度をして
部屋を出た
前夜から急に微熱が出て
風邪のような症状になっていたけれど
行くと決めたら身体が勝手に動いてしまう
3つのビュートを見下ろすホテルで一番の展望台に移動すると
すでに一人防寒着をきてカメラを向けている人がいた
黙礼をし
しばらく一緒に
白んでくる地平線をながめた
朝日が昇る前
世界の静けさが一段と深くなるのを
知っていますか
私はいつも
それを引き潮のようだと思う
世界中の音が
これから昇ってくる太陽の磁力で
地平線のかなたに吸い寄せられるような静けさ
そして
四方八方にしたたるような黄金の輝きを放ちながら
生まれたての
新しい太陽は昇ってくる
私にはそのとき
音にならない音が聴こえる
たとえようもない
荘厳な音
日の出を待っているうちに
もっと渓谷の中に入って行きたくなって
足が行きたいというまま
ひとり赤土の渓谷へ降りて行った
やがて日の出の気配が
あたりに満ち
圧倒的な光を放ちながら
新しい太陽が顔を出すと
今日のいのちをいただいた喜びに
世界が
感謝と歓喜の歌を歌いだすのが聴こえた
ナヴァホの人々の祈りの歌が
自然と内側から湧き上がってきた
「私の脚を癒してください。
私の腕を癒してください。
私の体を癒してください。
私の心を癒してください。
私の声を癒してください。
今日の良きに日に、私のために魔力を取り除いてください。
今日の良き日のために魔力を取り去ってください。
はるか遠くに、それはもち去られた。
はるか遠くに、すっかりもち去られた。
うれしいことに、私は回復していく。
うれしいことに、体の熱がひいていく。
うれしいことに、手足は元気を取りもどし
うれしいことに、頭もすっきりとしてきた。
うれしいことに、耳もまた聞こえるし
うれしいことに、歩くこともできる。
苦しまなくても、歩くことができる。
うちに光を感じながら、歩くことができる。
すばらしい気持ちで、歩くことができる。
美しさのなかを、私は歩む。
前にひろがる美しさといっしょに、私は歩む。
後ろにひろがる美しさといっしょに、私は歩む。
下にひろがる美しさといっしょに、私は歩む。
上にひろがる美しさといっしょに、私は歩む。
まわりじゅうの美しさといっしょに、私は歩む。
(ジョセフ・ブルチャック編 中沢新一+石川雄午 訳
NATIVE WISDOM『それでもあなたの道を行け』より)
恩寵の朝でした。